『ネットランナー』2006年1月号「ベスト・オブ・脳内洗浄ムービー」非掲載原稿

必要なかったのに書いてしまったためこの原稿は掲載されていません。勿体無いのでサイトに載せておきます。

選評

むてきんぐのぶち切れ音源集
http://www.voiceblog.jp/muteking/

架空請求業者へ電話で問い合わせて、そのとぼけた会話の音声をアップするという、珍しいジャンルで運営を続けるボイスブログが「むてきんぐのぶち切れ音源集」だ。詐欺撲滅という正義の看板を掲げて抗議活動をするわけではなく、かといってシリアスに法的手段にのっとり何かをするのでもなく、時にのらりくらりと、時に攻撃的に、業者とのバカげたバトルトークを続ける手法は、いかにもインターネット時代らしい個人の手段である。これを聞いて架空請求や迷惑メールに対する警戒心と余裕を心に持っていれば、騙される可能性も減るかもしれない。素人とは思えない喋りのなめらかさは、迷惑電話の対応マニュアルとしても威力を発揮しそう?

ドーナツもぐもぐクラブのデジオおやつ
http://tsukue.cocolog-nifty.com/mogumogu/

現在「劇団宝船」の中心人物として演劇方面で活動中の、高木珠里氏によるユニット「ドーナツもぐもぐクラブ」の音声ブログ。現在は休止中だが、毎回短いながらも気の利いたコント番組がアップされている。いつのまにか生活に忍び込まれたかのような、無理のないセリフ劇の雰囲気でありながら、しかし心には何か引っかかりを残していく、なんだかよく噛まないで飲み込んでしまったお餅のような存在感が聞いていて楽しい。テレビドラマ、アニメ、ラジオ番組の教育放送、料理番組、ライブのMCなどなど、ある設定をもってきてそれを対象化(パロディ化)する、その手腕が見事で、いちいち笑ってしまう。放送時間も含めて手本にしたいサイトの一つ。

Modulation
http://sugimoto.be/radio.htm

「Modulation」という番組名を聞くだけで、電子音楽/エレクトロニカ方面に感心がありそうだなと判る、ミュージシャンのスギモトトモユキ氏によるデジオ。ラジオ番組というよりは、スギモト氏の近況報告を兼ねた、音楽活動の一環として作られている音声トラックと呼んだほうが正しそうな雰囲気だ。サイト上では自作音楽ファイルを多数公開していたり、音楽ファンのソーシャルネットワーキングサービス「recommuni」でも販売していたりと、インターネットを活動の舞台として有効利用している例だろう。ところでプロフィールを見ると、Corneliusのリミックスコンテストにその名を連ねていたらしく、今度そちらも聞いてみようと思う。

ホルモンライダーのラジオ道
http://hormonerider.sakura.ne.jp/

“無職および彼女なし歴30年以上”を掲げてスタートした、ホルモン氏とライダー氏の男性二人組による「ホルモンライダーのラジオ道」は、2001年6月には既に始まっていた老舗ネットラジオ番組。関西らしい笑いのノリのフリートークが数多いリスナーの心をガッチリ掴んでおり……と解説を続けてもいいが、それよりもネット歴史家としては、オフ会などで会ったネットラジオ番組の管理者と組んで、コラボレーション放送をするなどの活動履歴に目を向けたい。こうした動きはニッポンのネットラジオの歴史では相当早いというか、今も未踏の地なのではないだろうか。老舗ながらも積極的に新しい展開を取り入れていく姿勢は評価したい。

i-morley
http://morley.air-nifty.com/movie/

J-WAVEのDJであるモーリー・ロバートソン氏と女優の河野麻子氏によるポッドキャストが「i-morley」。芸能のプロの二人ではあるが、少しオフっぽい雰囲気の会話が嬉しい。2005年10月にはインターネットを使ったブロードバンド同時録音システム「digital musician link」の実験を行い、11月にはビデオポッドキャストの試験放送も開始するなど、最新技術への視点も忘れないのは流石本職のプロ、と言うべきか。たまに「インターネットは名もなき個人のもの」という論調でネットを語る人がいるが、実際はインターネットは誰のものでもなく、ただ面白い場所に人が集まる当り前のシステムで出来上がっているのだ。そういう事を久々に考えた。

ポッドキャスト的生活「Bonchicast」
http://tin.hippy.jp/airbonchi/podcast/

「Live365」を利用して放送している「エアボンチ」と「AirOnchi」、他サイトの管理人とSkypeで喋ったトークを流すなど面白い展開を見せた「Dogcast」の「パウエル朝刊」など、複数のネットラジオを運営する管理人ちん氏が、7月に新たにスタートさせたポッドキャストが「Bonchicast」である。つい頷いてしまう内容のトークも面白いのだが、音声だけでなく、ポッドキャストの聞き方・録り方・現状解説などをまとめたハウツー記事も人気で、聞くだけでなく喋る事も面白いよ、貴方も始めてみなよと語りかけられている気がしてくる、魅力的なサイト作りが素晴らしい。ネットラジオの世界を遊び倒すための良質な入門サイトである。

モモ&YOU☆の声日記
http://www.voiceblog.jp/girls/

音声ブログサービス「ケロログ」のアクセスランキングでは、「むてきんぐのぶち切れ音源集」や「Dogcast」をおさえて、ぶっちぎりのトップを走り続ける大人気ポッドキャスト番組が「モモ&YOU☆の声日記」だ。ワタシが「ケロログ」に初めてアクセスした3月下旬から、既にランキング一位だったように思う。大阪生まれの女性二人組による、一回につき時間が10分にも満たないフリートーク番組で、ファンにはありがたい更新頻度の高さと、堅苦しくないリラックスした雰囲気。しかし素人すぎない最低限の構成が守られ、そして何より爆笑しながら共感できる巧みな話術は、まさしくネットラジオのお手本のような作りとなっている。既に老舗。

ナムコメドレー / FCB
http://famicomband.org/

ファミコンバンドことFCBによる、ナムコのゲーム限定の音楽メドレー(説明するまでもないか)。MIDI音源で楽曲をそのまま再現したものは多いが、ビッグバンドアレンジで生演奏したものは珍しい例だと思う。聴きながら「これはあのゲームだ/これ何だっけ?」と想像を巡らすのが楽しく、すぎやまこういちの諸仕事を思いだしたりもした。サイトには他にも「アトランチスの謎」「ファミスタ」「忍者メドレー」などの音楽ファイルが並んでおり、一度コンサートに足を運んでみたい。この「ナムコメドレー」さえあれば1986年に出たマイコンBASICマガジン別冊『ナムコビデオゲームミュージックプログラム大全集』(電波新聞社)はもういらない!かも。

山田君ロックンロール
http://netto199.hp.infoseek.co.jp/swf/yamada.htm

疾走感溢れるギターとドラムにのっかる早口なボーカルが耳に残る軽快なロックンロール曲。昔学校で一緒のクラスだった山田君に再会した女の子(かどうかはさておき)の、オブラートにつつまない物言いがそのまま歌詞になったような、細かいネタの連続が爆笑を誘う痛快な一曲だ。自分が学生だったら絶対に同級生に聞かせていたと思うし、ネットで面白いものはないかと訊かれたらよくこの曲を薦めている。2004年夏の「flash★bomb'04」で公開された時は映像と合わせて手拍子が起きたりと、会場が一体となり大盛況だったのを覚えているが、そのFLASH版で流れるバージョンとMP3音源版では若干歌詞が違っているので、未聴の場合は両方チェック。

MMO / 天誅
http://tenchu.jp/

少し前に2ちゃんねる用語を連発した歌詞で話題になった「頭狂アンダーグラウンド」で馴染みの深い“オタポップ”バンド「天誅」の2005年の新曲が「MMO」。もともとオタク/サブカル的な意匠を散りばめた歌詞をブレイクビーツにのせてラップするのが特徴で、今回の「MMO」は「Massive Multi-player Online」の略、曲のジャンルは「ラップ朗読ブレイクビーツ」とのこと。曲を聴いて連想したのは10年以上前に出た電気グルーヴのアルバム『KARATEKA』だが、そこからエッセンスを抽出して現代的アレンジにしたのが天誅、と書くと聴いた事がない人にも連想しやすいだろうか。フリッパーズギターにおけるround table的位置づけと解釈した。


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最終更新日:2005年12月08日