『RE/SEARCH』という雑誌をご存知だろうか。90年代には「知ってて当り前」レベルだったが、最近は編集者のAndreaがどこかへ行き、V.Valeも別の方面に力を入れはじめて、とんと噂を聞かなくなった。ここではその『RE/SEARCH』について解説したい。
『RE/SEARCH』の前身はV.Valeによる『SEARCH and DESTROY』というパンクマガジンで、1976年から1979年にかけて発行されていた。値段は$5で全11冊。現在は二冊(#1-6, #7-11)にまとめられたものが出ている。パンクムーブメントによって西海岸ではいわゆる最初の“Zineムーブメント”が起きたようで、例えばサブカルっ子に有名な『WET』もその流れだと思われる。
1980年にV.ValeとAndrea Junoがサンフランシスコの本屋「シティライツ書店」(City lights Bookstore。サンフランシスコのノース・ビーチにある、ビートジェネレーションを引っ張った有名な書店)で同じ本を取ろうとして意気投合し、V.Valeの『SEARCH and DESTROY』をさらに発展させた形で『RE/SEARCH』を作ることになった。『RE/SEARCH』は印刷費をなるべく安く抑えるため香港や台湾などアジアに任せており、工場が空くまで次号が出ない、ということもザラで、発刊ペースは一年から一年半で一冊。それでもバロウズやバラードの特集号で世界的に注目され、日本でも色んな所でタネ本になった。80年代のペヨトル工房の半分は『RE/SEARCH』のパクリで成り立っていた、と酷いことを言っておく。内容を紹介していこう。
#1〜#3はまだ特集らしい特集はない。#1は後の号でも度々取り上げられるようなアーティストが頻出。イギリスのSF作家J.G.バラード、前衛音楽集団キャバレー・ヴォルテール(Cabaret Voltaire)、アルゼンチンの作家フリオ・コルタサル(Julio Cortazar)、メキシコの詩人オクタビオ・パス(Octavio Pas)、ポストパンクバンドのスリッツ(Slits)など。#2は音楽中心に、オーストラリア先住民アボリジニ、西アフリカの音楽特集や、ジャーマンエレクトロ音楽の紹介。#3はだんだん変な内容になってきて、日本では『血みどろ臓物ハイスクール』で有名?な作家キャシー・アッカー(Kathy Acker)や、パット・カリフィア(Pat Califia)を招いてのSM談義、フランスの変態リトルマガジン『Sordide Sentimental』やらの紹介。
1982年。この号から総特集制に移行。ビートニクとインダストリアル・ミュージックの精神的血脈。日本では多分それほど知られていない、ビート派には伝説の芸術家ブライアン・ガイシンの資料がグレイト。スロッビング・グリッスルの各国対応ディスコグラフィはインターネットにつなぐまでは重宝した。山形浩生の『たかがバロウズ本。』によればこの号は以下の通り。
Re/Searchはおそらくアメリカでのバロウズ再評価のきっかけになった名雑誌。ヴェールとアンドレア・ジュノの二人組でやっていて、このバロウズ特集と続く数号のインダストリアルロック特集やバラード特集は、中身もデザインも絶好調。その後、しばらくして急につまらなくなってしまった。それはさておき、バロウズ特集の中身は、『シティー・オブ・ザ・レッド・ナイト』の削除部分、独自インタビュー、テープ朗読の形でのみ発表されたというバロウズ作品の抜粋、そして写真多数。なまじ変な「バロウズ論」みたいなのがなくてステキ。また、いっしょに特集されているブライオン・ガイシンとスロッビング・グリッスルもそれぞれバロウズと深い関わりを持っており、特集を読めばその結びつきも見える。バロウズと言えばビートと組ませるのがほとんど脊髄反射みたいな状況で、あえてこういう組み合わせの特集を組むこと自体、編集者の高い見識がよく出ている。
1983年。インダストリアル・ミュージック特集号。#1と#3の決定版的内容。スロッビング・グリッスルやキャバレー・ヴォルテールにはじまり、SPKにゼヴ(Z'EV)、ノン(Non)にモンテ・カザザ(Monte Cazazza読み方知らない)にマーク・ポーリン(Mark Pauline)にジョアンナ・ウェント(Johanna Went)! 判るやつだけ羨ましがる充実の内容。日本でも'83年にノイバウテンが来日公演したことで一時期盛り上がった。『銀星倶楽部』のノイズ・ミュージック特集号('92年)がパクったのは有名な話(小さく「参考にしました」って書いてあるけどね)。
1984年。J.G.バラード総特集号。インタビューとバイオグラフィーはもちろんのこと、バロウズによる寄稿、ビブリオグラフィまで徹底した資料。らしい。未見。この号をもとに『ユリイカ』はバラード特集の号を一冊作ってる。
1986年。カルトでモンドな映画特集。AからZまでの作品リストやドラッグ映画紹介の他、H.G.ルイス(Herschell Gordon Lewis)、ラス・メイヤー(Russ Meyer)、ラリー・コーエン(Larry Cohen)、フランク・ヘネンロッター(Frank Henenlotter)などの監督インタビューをまとめて読めるのが嬉しい。今でこそこうした映画の数々は「B級映画」として評価されているが、これを80年代半ばにやってしまったことが凄いのである。もちろんこれより前の'84年にDany Pearyの名著『Cult Movies』シリーズで再評価の気運が盛り上がっていたけども。
1987年。プランク=キワモノ(A prank is a“trick, a mischievous act, a ludicrous act.”と説明されている)。LSD開発者ティモシー・リアリー(Timothy Leary)に反戦運動で有名?なヒッピー思想家アビー・ホフマン(Abbie hoffman)といった胡散臭い人達をはじめ、モンテ・カザザにジェロ・ビアフラ、はてはジョン・ウォーターズ(John Waters)まで登場する、わけのわからない内容。なるほどPranks。ビデオ版ではマーク・ポーリン、カレン・フィンレイ(Karen Finley)、ジョー・コールマン(Joe Coleman)、ボイド・ライス(Boyd Rice)等のパフォーマンスおよびディスカッションが収録されている。
1989年。モダン・プリミティヴとはすなわち原始回帰、つまりタトゥーとボディ・ピアッシング写真のオンパレード号。表紙をめくった途端に目に入ってくるのが紐で縛ったチンコと乳首をつるされた人のスナップ写真で、読者の期待を裏切らない。もちろんキワモノ的扱いでなくても、巻頭のボディー・アートのカリスマ、ファキール・ムサファー(Fakir Musafar。1982年にセルフ・ポートレート集『Body Play』を発刊し、一躍カリスマとなった。表の顔はシリコンバレーの広告会社代表チャールズ・グリーンウッド)のインタビューや、古代の壁絵から始まる文化人類学的考察は資料的価値も高そう。『危ない一号』2号での紹介文は以下。p56のハーフペニスの無修正写真を見たければ買い。
89年の発行以来、今なおこの分野の最重要文献であうことに変わりはなく、「モダン・プリミティブ」なるムーヴメントを認知させた功績は余りにも大きい。ムサファーのロング・インタビューに始まり、環太平洋文化の一端としての身体加工まで広く扱う。ファッションとしてのボディアートにあき足らずその背景を学びたい者は必読! そうでない人も、モンドな写真の数々は必見だ!
1991年。16人の女性パフォーマンス・アーティストに、ジェンダー/フェミニズム思想をはじめ、セックス、ユーモア、美しさについてインタビューした“怒れる女性”号。RE/Searchの中で一、二を争うつまらなさ。もとい、私は興味がわかない。インタビュイーはカレン・フィンリー(Karen Finley)、アニー・スプリンクル(Annie Sprinkle)など。
1993年。世界中にラウンジブームを起こした“驚くほど奇妙な”音楽特集。これまで誰もがクズとして見向きもしなかった類の音楽──50年代のムード音楽やSE集や放送テスト用のレコード、ムーグやテルミンなど電子音楽──を掘り下げた超有名な号。CDも出ていて、当時HMVではセットで売られていたはず。日本では「モンド・ミュージック」という名前で紹介され本も出て大ヒットした。両特集の巻頭インタビューを飾るのがクランプス(CRAMPS)とジェロ・ビアフラ(Jello Biafra)であったことからも判る通り、同じ再評価でもサバービアとは正反対の位置にある。『BRUTUS』'93年11/1号の小西康陽の連載も参照。
サンフランシスコで出ている「リ/サーチ」という雑誌のことは、神戸の安田謙一氏から教わった。もう十四冊目だというのに全然知らなかったこの不思議な雑誌(というよりムックかな)、毎号ひとつの特集に全ページを費やして、徹底的に「リ/サーチ」してしまうというスタイルで、いままでにJ・G・バラードやモンド映画などのまとまった本を作っていて、噂では日本のいくつかの雑誌のネタ本としてすでに有名なのだという。
安田くんが見せてくれた最新号はもちろん音楽特集。それも「インクレディブリィ・ストレンジ・ミュージック」というタイトル。お察しの通り、これまで一度もまとまって掘り下げられたことのないタイプのジャンルの音楽のオン・パレード。ベリィダンスとストリップの音楽、宇宙もの、エキゾティック・サウンド、有名人のレコード、企業PRのレコード、イージィ・リスニングもの、ムーグ、シタールもの、口笛もの、テルミンのオンがウ、ハーモニカもの、アコーディオンものに、オルガンもの、イタコもの(religious ventriloquism──「宗教的腹話術」を訳してみたんですが)といった珍盤奇盤の紹介と、さらに珍奇なレコード・コレクターたちのインタビュー、そしてこのテのジャンルにおけるVIPたち、マーティン・デニィやジャン・ジャック・ペリィ(ペリィ&キングスレイ)、そしてアーサー・キットといったアーティストたちへのインタビューといったラインナップ。
ざっと紹介しただけで、もうなにも書くスペースがなくなってしまったが、とにかくヘンな音楽が入っているに違いないヘンなジャケットを見るだけでもOK。いまならまだ二束三文で買える盤たち。そしてあのクランプスのマニア道に感涙。
1994年。身体と排泄物号。トイレットペーパーはどのように発展してきたのか? おならとは何か? 便秘・耳垢もこの一冊でOK。健康第一。みたいな内容らしい。未見。今のところ最終号。
この他にもRe/Search関連のブツはあるが、その辺は各自リサーチして頂きたい。暇な方は20世紀末の日本のサブカルチャーの源流の一つとして『RE/SEARCH』の影響を調査するのもいいだろう。